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書肆短評

本と映像の短評・思考素材置き場

すぱんくtheはにーさんの評論冒頭

さて、コミケ期間限定で、すぱんくtheはにーさんの評論冒頭1節+αを紹介します。

ガルパンがないぞ」という話は無しで。第2節でちゃんと出てきます。あと3節はカオスですが、読ませるものになっています。話としては『アニクリvol.4.0』のすぱんくさんの論に続くもので、そちらをお読みくださると理解が進むものと思われます。(例によって簡潔な紹介で申しわけありません)

本誌においては、本論考に続いて、@tackerx さんと、@totinohana さんからのレビュー、そして 、@SpANK888 さん自身によるリプライが掲載される形となります。

 

以下、抜粋となりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 

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1 Kickstart My Life

(1)Kickstart the life, but whose?

『ばくおん!』最終話において、主人公・佐倉羽音は「バイクでいままで一度もコケたことがない」と述べた。それに対し、バイクに乗ることを勧めた天野恩紗は羽音へ向けてこう告げる。
バイク乗りってのはコケて初めて一人前になる生き物なんだからな」

この一言は事もなげに投げかけられるが、一見すると逆説的だ。
なぜなら、想定している/されているライディングを行う限りバイクはコケないためだ。決められた挙動の中では、バイクはコケることはない。ならば、普通に考えれば、「コケない」ことが一人前の証明なのではないだろうか?バイクを上手くコントロールすることで「コケない」ことが一人前の証になるのではないのだろうか?

しかしそうではない。
ここには、虚構のキャラクターが「決められた運動」から逃れ、予想を逃れるという意味において初めて実在する「生き物になる」過程が、如実に示されているためである。

 

(2)Kickstart “My” Life

バイクをコントロールする機構は両手と両足にしかない。しかし、その四ヶ所だけで「バイクに乗る」ことは
できない。自立できない乗り物であるバイクはライダーの支えなしでは真っ直ぐに走ることすらかなわなず、曲がり角では操作機構には存在しない、車体ごとライダー自身の体を傾けるという挙動によって初めて曲がることが可能となる。
全身をフルに使いながら「想い通りのライン」を走っていく快感はバイクの大きな魅力の一つだ。

そしてその快感は「ダンス」に似ている。
手足の挙動を越え、ステップし、全身を動かすことで「想い通りの振り付け」を描く。全身で「イメージする身体」を表出させる快感は、バイクとダンスに共通する”喜び”である。

しかし同時に「想い通りのライン」「想い通りの振り付け」は、「決められた動作」をライダーに強要していく。そういった「決められた動作」として印象的なものに、アニメにおける「バンク」システムがある。変身や合体、あるいは必殺技といった「重要でありながら決まった動作を行う」シーンを、銀行(バンクbank)に預けるように保管し再利用するために引き出すシステムである。
それは「バンク」シーンの度に、同じ映像を画面に描く。それは正に「思い通り」の動作を常に、完璧に描くことができるシステムであり、ある種「思い通りのライン」「思い通りの振り付け」の完成形であると言える。
それは何度でも何度でも、同じ動作を「再現」することができる。しかしそれは先に述べたように、決められた運動から逃れられない「虚構」であることを強く要請するものでもある。
一方でバイクも「バンク」を行う。バイクはカーブを曲がるときその車体をライダーごと斜めに傾むける(バンクbank)することで旋回性能を得る。その瞬間に「思い通りのライン」が要求するバンクの角度は一つしか無いのかもしれない。だが路面の状況や、道路の混雑状況、マシンのコンディション、あるいはライダーの精神状態によって「思い通りのライン」は変化し、同時に「バンク」の角度も変化していく。
同じバンク(bank)という言葉を持ちながら、アニメにおけるそれは「決められた動作」を繰り返すものであり、バイクにおいては「一度しか現れない」ものだ。
その一回性によって変化する「バンク」は常に異なった結果をもたらし、それは時としてバイクがコケる可能性を開いてしまう。そしてコケるがゆえに、その挙動は「決められた動作」から逃れることを可能とするのである。
つまりコケることができないバイク乗りの姿は可変する「バンク」ではなく、不変の「バンク」によって「決められた動作しかできない」虚構的存在となってしまう。
……つまり恩紗のセリフはこう言い換えられる。
バイク乗りってのはコケて初めて生き物になる(傍点:生き物になる)んだからな」

 


(3)Kickstart their life

過去、『アニメクリティークVol.4』の拙論では、アニメにおけるアイドルのダンスを例に、次のように述べていた。『アイカツ!』における大空あかりの「ダンスの失敗」は、ダンスが持つ規定された動きから外れるものである。それゆえにキャラクターを「決められた動作しかできない虚構的存在」から「予想外の動きをする実在的存在」へ変化できる一つの回路として働くものだ、と。
この理路は、一見すると捻り過ぎで蛇行しているように見えるかもしれない。拙論以降のアニメ表現としても、例えば『プリパラ!』では、ガァルルというダンスの習得をはじめたばかりのキャラクターがライブを行い、そのステージ上でアイドルとしては未熟なガァルルは「転倒」する。つまり、大空あかりもガァルルもアイドルとして未熟である表現として「ステージ上での転倒」が描かれ、コケることが一人前ではないことの表現となっているためである。
しかし、ここでは実は、コケるのはアイドルとして未熟だからだ、という意味自体が「転倒」しているのだ。

(引用はじめ)
「死なない身体」を持つアイドルから、「殺せる身体」を持つアイドルへ。もはや決して取り戻せないもの(典型的には死の可能性)を与えることによって、もともと死んでいたはずのキャラクターは、はじめて生を得ることができる。(『アニメクリティークVol.4 Dance of the Dead——自然主義的フィクショナリズムと、殺せる身体の行方』より)
(引用終わり)

バイクはコケて傷つくことによって、取り戻せない欠損を得る。ダンス中にコケることによって、取り戻せないステージの失敗を得る。それは「死なない身体」から「殺せる身体」への移行である。絶対に傷つかないバイクから傷つくバイクへ、虚構的存在から実在的存在への変化がここでは起きているのである。彼らはここで彼らにとっての「私の生」を駆動させている。

それは私たち現実の身体と、キャラクターたち虚構の身体の境界がまるで取り払われたかのような錯覚を覚えさせる。そしてその瞬間、私たちの現実は虚構によって上書きできる可能性が開かれるのだ。
虚構がフィクションが、現実に生きなければならない私たちの世界を豊かにするためには、この境界の「混乱」によって現実と虚構を等価に繋ぎ止めなければならない。
この虚構的存在から実在的存在への変化だけが、それを可能にするのである。

2 その鼓動さえも暖かい

(1)突発的な写実--『ばくおん!』

バイクがコケることが、なぜバイク乗りを「生き物」にするのか。ここで、虚構の存在が実在の傷を負う可能性を先鋭化した作品として、もう一つ『ガールズ&パンツァー』を上げることができる。

『ばくおん!』最終話では、上記の会話のあと羽音がバイクを初めてコケさせてしまうシーンが描かれる。駐車状態からバイクを倒して傷をつけてしまうのだが、このとき羽音の顔には特徴的な「歯」が描かれている。
『ばくおん!』全話を通してこの歯の描かれ方がされるのは、この1シーンのみだ。さらに、通常描かれる歯の表現よりも写実性を持った描かれ方がなされている。
アニメの中のバイクが傷つき、実在的存在になろうとするその瞬間に、羽音の口にも写実的な歯が出現する。この含意は何か?

そもそも鉄の馬とも形容されるバイクは、人馬一体としてライダーとの身体的結びつきを強く要請する乗り物だ。二輪車の教習ではこのように言われる。「バイクは見ている方向へ曲がっていく」と。バイクに跨った状態での視線の方向は、自然と体に傾きを与え、その傾きによってバイクは自然に視線の方へ曲がる。
この意志と動作と挙動の一致は、ライダーとバイク本体との境目を曖昧にしていく。まるで自分とバイクはこの跨った状態が本来あるべき「私という生き物」の姿であるかのように強く錯覚させられていく。キックスターターを蹴ることによって、「私」は初めて自分の輪郭を拡張し、生(My Life)の実感を得る。
ここから、バイクの傷とは、ライダーにとって延長された自分の身体に与えられた傷となる。だからこそ、バイクが傷つく=実在的存在になるとき、ライダーの身体には写実的な歯が現れ、バイクと同時に虚構的存在から実在的存在への移行が起きるのである。

(2)必随する傷--劇場版『ガールズ&パンツァー

 

 

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(以下略)

 

以後、2(2)が続いたのち、

 

3 伝えるべきもの

(1)身体の消失点の〈彼方〉
(2)死ぬことのない死体を見るのか?生くることなき生を見るのか?
(3)乗りと勢いの国は此処に

と、バイク乗りならではの叙情的な一節で文章はしめられます。

  

なお、橡の花さんとtacker10さんからのコメント(とリプライ)については、すぱんくさんに関する様々なネタバレを含むのでこちらでは省略ということで。

 

以上